― 開発審査基準第16号許可申請と相続未了、二つの壁を乗り越えたケース ―
はじめに
「介護費用のために実家を売りたいが、なかなか売れない」——そんなご相談をいただくことがあります。今回ご紹介するのは、愛知県内のA市にある市街化調整区域内の土地について、開発審査基準第16号に基づく許可申請書の許可取得と、未了だった相続手続きの整理を並行して進め、無事に許可が下りたケースです。
ご相談の内容
ご依頼者様のご実家は、現在どなたも居住されていない状態でした。母親様は要介護の状態にあり、介護費用に充てるためにこの実家を売却したいというご意向をお持ちでしたが、なかなか買い手がつかない状況が続いていました。
不動産会社様に相談したところ、A市建築課から「愛知県開発審査基準第16号に基づく許可申請が必要」との案内があり、審査に必要な書類のチェック表を受け取りました。そこから、不動産会社様のご紹介で昨年10月にご相談をいただきました。
見えてきたもう一つの課題
チェック表に基づき必要書類を収集していく過程で、開発許可とは別に、次の課題が明らかになりました。
相続手続きが未了だったこと
対象の土地・建物は、父親様が10年以上前に死亡された後、遺産分割協議が行われないまま名義変更(相続登記)もされていない状態でした。開発審査基準第16号に基づく許可申請にあたっては、権利関係が整理されていることが前提となるため、この相続未了問題を先に解決する必要がありました。
開発審査基準第16号の手続きの流れ
開発審査基準第16号は、市街化調整区域内において「建築物の新築、改築若しくは用途の変更又は第一種特定工作物の新設許可申請書」に対する許可の可否を判断するための審査基準です。この許可申請書に対する許可を得るまでには、大きく分けて三つの段階があります。まず、行政(建築課)によるチェック表に基づいて必要書類を整え、内容を確認・調整する「事前協議」。この事前協議が整って初めて、許可申請書を提出する「本申請」に進むことができ、開発審査基準第16号に照らした審査を経て「許可」が交付されます。今回のケースでは、この事前協議の段階で、相続未了や過去の利用実態の証明といった想定外の課題が次々と明らかになりました。
対応のプロセス(事前協議段階)
1. 相続関係の整理(昨年10〜11月)
相続発生時にすでに収集されていた戸籍一式を活用し、相続人の範囲を確認。相続人間で協議いただき、土地・建物をすべて母親様名義とすることで合意し、遺産分割協議書を作成しました。相続登記自体は行政書士の業務範囲外となるため、ご子息様がご自身で申請できるよう、必要書類と法務局への申請手順を整理してお渡ししました。
2. 売主の事前協議
A市長宛に、土地売却の必要性を説明する申述調書を作成し、A市建築課との事前協議を実施しました。この協議の中で、A市建築課より、過去の建物の利用実態の証明、および建築確認申請書類の取得が必要であるとの指摘を受けました。
3. 過去の建物利用実態の調査
対象地では過去に飲食店(喫茶店)が営まれていた時期がありましたが、当時の許可書類等が現存していないことが判明しました。事実関係を明らかにするため、保健所に対して営業していた時期を証明する資料の取得を進めました。
4. 確認申請書類の再取得
事前協議に必要な建築確認申請関係書類(図面・申請書類)についても、原本が現存していないことが分かりました。愛知県建築課に相談し、当時の記録から証明書を発行してもらう対応を取りました。なお、図面についてはご依頼者様がお持ちだったものを活用しました。
5. 買主の事前協議(今年3月)
買主が見つかったことを受け、買主側による事前協議に移行しました。A市役所宛の申述調書を作成し、買主の利用計画が許可基準に妥当するかを示す書類を整えたうえで、A市建築課との事前協議を行いました。
6. 図面一式の作成(事前協議の最終確認事項)
売主・買主双方の事前協議が終盤に差し掛かった段階で、A市建築課からあらためて、土地の測量図・現況図・求積図・排水構造図等、一式の図面提出を求められました。このうち土地の測量図については、知り合いの測量士に測量を依頼。求積図・排水構造図については当事務所にて作成しました。これらの図面が整ったことで、事前協議は完了となりました。
本申請と許可
事前協議が整ったことを受け、「建築物の新築、改築若しくは用途の変更又は第一種特定工作物の新設許可申請書」を作成し、A市建築課へ本申請として提出しました。開発審査基準第16号に照らした審査を経て、当該許可申請書に対する許可が交付されました。
結果
昨年10月のご相談開始から約10か月を経て、事前協議・本申請を経て許可申請書に対する許可が下りました。相続の未了、過去の営業実態の証明、確認申請書類の不存在、測量・求積図・排水構造図といった各種図面の新規作成という複数のイレギュラーが事前協議の段階で重なった案件でしたが、一つずつ関係機関・専門家と調整しながら整理し、許可取得まで導くことができました。
まとめ
市街化調整区域内の不動産売却では、「開発許可が下りるかどうか」という表面的な課題の裏に、相続未了、過去の建物利用実態を示す書類の欠落、測量図面の不存在など、複数の見えない壁が隠れていることがあります。書類を集める過程で初めて発覚するケースも少なくありません。行政機関との調整、事実関係の裏付け調査、専門家(測量士等)との連携を含め、幅広く対応できる専門家への早期のご相談が、解決までの時間を大きく左右します。
同様のお悩みをお持ちの方は、お早めにご相談ください。
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